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「綾子ちゃん…唯ちゃんと何かあった?」
突然、みわさんが心配そうに私を見つめ問う。
「えっ?なんで?…唯が何か言ってたの?」
ドキッと心臓が大きな音を立てた。
「何も言ってないけど…『最近は綾子ちゃんと二人で飲みに来ないね』って私が言った時、唯ちゃんの様子がいつもと違う気がしたから」
「そうなんだ…。別に喧嘩とかじゃ無いんだけど…私がね、唯の信用を失う事しちゃったから。…きっと呆れてるよ」
鼻でふっと笑って見せると、カクテルをコクンと一口大きく飲み込んだ。
ステレオから流れるピアノの音色。
両手で頬杖をつき、カウンターを飾る真っ赤な薔薇の花びらを眺める。
「もう一杯、何か作ろうか?」
慎ちゃんがステレオのボリュームを下げて微笑んだ。
「うん、お願い。ジンベースのがいいな」
「了解」
慎ちゃんは棚からグラスを取り、並べられたリキュールのボトルに視線を移す。
数十分前、
「綾子ちゃんと唯ちゃんだもの大丈夫よ」
その言葉と笑顔を残し、みわさんは自宅に戻った。
しっとりとした時間の流れる空間の中、私はライムをスライスする慎ちゃんの手もとを見つめる。
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