真実と嘘

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「あら綾子ちゃん、一人で来てくれるなんて珍しいじゃない?」 経営するレストランを閉店させ、バーに戻ったみわさんが柔らかに笑った。 「今日は一人で飲みたい気分らしいぞ。朝までのアフターサービスは俺が引き受けよう!」 カクテルグラスを拭く慎ちゃんが、カウンター越しにスケベ心丸出しの笑みを見せた。 「慎ちゃんのアフターサービスは要らない。私、オッチャンには興味ないから~」 ケラケラと笑いながら、目の前のカウンターに置かれたカクテルに手を伸ばす。 平日0時を過ぎた店の客は、いつの間にか私一人だけになっていた。 控えめなオレンジ色の照明に照らされながら、ライチリキュールのオリジナルカクテルを口にする。 「オッチャンは酷いよぉ~。肉体はオッチャンでも、心はいつまでも夢と女を追い掛ける青年なのにぃ~」 「肉体がオッチャンだったら全くの用無しなんですけど?」 ふて腐れ、口を尖らせる慎ちゃんに悪戯な笑みを返す。 「本当に綾子ちゃんと唯ちゃんて似てるわよね。昨日も同じ様にマスターを弄って遊んでたわよ」 カウンターに回ったみわさんが、私達を眺めて微笑んだ。 「…唯、昨日ここに来たんだ…」 グラスをコースターに置き、視線をカクテルの水面に落としながら呟いた。 「唯ちゃんは飲みに来たんじゃなくて、直人君を迎えに来たんだけどね」 「直人の奴、また酔っ払って唯を呼びつけたんだ」 「そう。出張から戻った連絡もしないで飲んでたみたいで、それでいつもの『唯~迎えに来て~』でしょ、唯ちゃん怒ってたわよ~」 「おまけに柳ヶ瀬でお姉様と遊んで来たらしくて~それをヘラヘラ笑いながら話すもんだから、唯ちゃんの回し蹴り食らってやんの。正直過ぎてバカだね~あいつ」 慎ちゃんが上機嫌に手を叩いて笑う。 「はは!正直過ぎて笑えるけど…きっと唯だから話せるんだよ。付き合いが長くなるにつれて、隠し事をしないのは口で言うほど簡単じゃないしね…」 頬杖をつき、私は苦笑いを落とした。
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