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「ねぇ、慎ちゃん…」
「ん?」
「相手に嘘をつき続けるのと、全て正直に言って傷つけるのと、どっちが残酷なんだろ。どっちが罪が重いんだろ」
視線を動かさぬまま、私はその言葉を口にした。
「…どうした?急に」
慎ちゃんは包丁を持つ手を止め顔を上げる。
「…何となく…慎ちゃんに聞きたくなった。慎ちゃんなら、今までの人生いろんな修羅場潜り抜けてそうだし」
両手で頬杖をつき、ニッコリと悪戯混じりの笑みを送った。
「なんだそりゃ。…修羅場ねぇ、まぁ、この年になるまでは色々あったな。嘘ね、俺は全ての嘘が悪いとは思わないけど。相手が真実を知る事で不幸になると分かってたら、俺は最後まで嘘を貫き通すね。知らぬが仏って言うだろ?」
「知らぬが仏…。慎ちゃんてさ、今まで何回浮気がバレた?」
「おいおい!何回浮気がバレたって、順序として『浮気した事ある?』から始めるだろ~」
「そんなの聞くまでも無いもん。ねぇ、みわさんと結婚してから浮気バレた事ある?」
苦笑いを浮かべる慎ちゃんを、好奇心いっぱいの表情で見つめる。
「…ある。俺は最後まで認めて無いけど。もし仮に、裸で女の上に乗ってるのを見られたとしても『やってない!入れてない!』と主張する男だぞ、俺は」
「はぁ?そんな状況で入れてないなんて言われても信じないでしょ。それに、入れるとか以前の問題だし」
唖然とした表情で慎ちゃんを見つめる。
「究極の状況に置かれた場合、その『入れてない』が最終的に重要なポイントとなるんだぞ?浮気された側も最終的にはそこに拘るからな。って言っても、今のは大袈裟な例だぞ。実際はそこまでの状況じゃなかった」
首を傾げる私を見て、慎ちゃんは得意げに笑った。
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