『短針は歩くのをやめた。』 I

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『短針は歩くのをやめた。』 I

 雲一つなく広がる青い空をただただ眺めている。 身体を射す如く照りつける日差しには、夏の面影を感じる。 夏休みが終わり、児童生徒が不機嫌な顔で登校する姿を横目で嗤笑する様子を思い出す自分に少し笑えた。 とは言え、どれだけ日が射そうとも、風はそれに反発するかのように冷たく吹き荒れる。 今日は特に冷たく、そして強く身体を包み込んでいく。 風は嫌いだった。 いつも側で吹き荒れて、独りにきりにさせてくれないからだ。 だが、今は風に包まれることが自然と嬉しく感じる。 反転した世界を失う悲しさや、触れられないもどかしさを紛らわし、自然体にさせてくれるからだ。  時間というものはあっという間に過ぎていく。 人は時として1秒が数時間にも感じることがある。 そのイメージとして死の瞬間を思い浮かべる者は少なくないだろう。 実際は、もっと身近で起きている。 クロノスタシス。 デジタル時計がぞろ目になった瞬間、時間が少しだけ長く感じること、さらには、アナログ時計で秒針の進み方がある一秒だけ長くなっているいうに感じることなどが挙げられる。 もしかしたら、時間というのは曖昧な存在なのかも知れない。 そして、一瞬の時間を一生長く感じていたかった。  慣れ親しんだ校舎を背に独り考える。 何を言えば言いにだろうか。 何を伝えたいのだろうか。 叫びたい言葉が噴水のように吹き出してくるが、実際に言葉することはなかった。 冷静に考えれば、2階から屋上まで逆風の中で叫んでも恐らくは届かないだろう。 それに…。 屋上から覗く彼女の姿を見たら 自然と力が抜けた。
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