『短針は歩くのをやめた。』 I

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 ビルの屋上から篠山涼介(ササヤマ リョウスケ)は市街地を俯瞰する。 地上の星―繁華街のネオンライト―の自己主張が強いため、目を細める、まさに目に毒である。 手を用いて遮断したいのだが思うように動かない――例え動いたとしても届くことはない――。 篠山は目を凝らして光の受容量を少なくする。 時刻は深夜零時を回っており、ビルからのLEDがなく、屋上の地面に視線をおとせばある程度は見ることができた。 地上の星から生じた陰が月明かりに伸ばされ、それが篠山の足元にまで達していた。 徐々に近づく陰から負のエネルギーを感じる。 直線50㎝、冷たい目が篠山の左目を捉える。 真夏の夜とは不釣り合いなコート姿のソレは優しく篠山の頬を撫でる。 幾何学模様におおわれたコートが月明かりを受け反射した――それはきれいなものであった――。  そろそろ寝る時間になってきた――普段は火を跨ぐことはない――。 思考が鈍くなり、視野がぼやけて見えた。 瞼から力が抜けて視界を覆った。 最後に見えたのは、幾何学模様を身に纏う寒がりなソレと愛でられる左―ソレから見れば右である―、それぞれの眼がみつめあうことに違和感を感じつつも思考は処理するまでには至らなかった。
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