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『刺激を求めて』
〈〉
呼気が白く染まっていく。
血と汗が頬を伝い、口内にまで流れ込み、唾液と混ざりあう。
鉄と塩の嫌な風味が脳にまで届き、思わず吐き出す。
研ぎ澄ましていた神経にとっては、一時的な休息ができた。
ヘッドフォンから伝う讃美歌に意識を集中する。
脳から脊椎へ興奮を伝達し指の先端まで拡散していく感覚に襲われ、無意識のうちに左足でリズムを刻んでいた。
慌てて動きを止めたため、少しだけぎこちなくなってしまった。
讃美歌にシンクロし始めた心臓を右手で確認してから、軽い深呼吸で息を整え、意識を外へ拡散させる。
グラウンドの雑踏、揺れる校舎、曇天の空、すべてが雑音に聞こえて仕方がなかった。
視線を上げ、右手を掲げ、指を鳴らす。
小学生が都会の雑踏に紛れるように、幽かな音が呑み込まれていく。
自分という存在がどれだけちっぽけで、どれだけ孤独かを痛感する。
(神よ、あんたは平和を嫌うのか?
神よ、あんたは孤独が好きなのか?
神よ、俺に会いたいか?
愚問だったか。
すぐ終わらせる、俺の神よ。)
誰にも見えないように軽く微笑む。
目を瞑り、頭を下げ、右手でヘッドフォンを外し首にかける。
(さぁ始めるか)
目を開いて広がる世界の情報を全身で受け止め、脳へと叩き込む。
光も嗅いも空気中を飛散する血の味も何もかもを感じている中、そこには"音"が存在しなかった。
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