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アパートの陰から私は出て行き、高梨の方へゆっくり歩いていく。
動作とは逆に、また胸の鼓動は速くなった。
こちらの足音に気付いて高梨が振り返り、私と視線が合うと同時に目を見張った。
「…ひかりさん…?」
驚いて私を見る高梨の瞳は、ひどく揺らめいて見えた。
「…ごめん。帰ろうとしたらちょうど…出づらくなっちゃって。」
そう言いながら、敷地の出入口付近を指差す。
「…あぁ。見られたってことか。」
ふー、と溜息をつきながらも、事もなげに答える高梨に、胸の奥がチリッとした。
「…コレ。飲むつもりだったんじゃないの?入れば。」
高梨はレジ袋をひょいと持ち上げて見せ、階段を指差す。
「…いいの?」
おずおずと答える私に、高梨はふっと笑いかけて言った。
「…今更、でしょ。」
そう、なの?
どういう意味で今更なのか、読み取れなくて。
曖昧に頷き、先に歩き始めた高梨の後について行った。
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