10. もつれる糸

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アパートの陰から私は出て行き、高梨の方へゆっくり歩いていく。 動作とは逆に、また胸の鼓動は速くなった。 こちらの足音に気付いて高梨が振り返り、私と視線が合うと同時に目を見張った。 「…ひかりさん…?」 驚いて私を見る高梨の瞳は、ひどく揺らめいて見えた。 「…ごめん。帰ろうとしたらちょうど…出づらくなっちゃって。」 そう言いながら、敷地の出入口付近を指差す。 「…あぁ。見られたってことか。」 ふー、と溜息をつきながらも、事もなげに答える高梨に、胸の奥がチリッとした。 「…コレ。飲むつもりだったんじゃないの?入れば。」 高梨はレジ袋をひょいと持ち上げて見せ、階段を指差す。 「…いいの?」 おずおずと答える私に、高梨はふっと笑いかけて言った。 「…今更、でしょ。」 そう、なの? どういう意味で今更なのか、読み取れなくて。 曖昧に頷き、先に歩き始めた高梨の後について行った。
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