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「ひかりさん、…結局半端にしか慰めてやれなくてごめん。」
高梨は謝りながら、茫然としていた私の髪を長い指で一筋掬い、サラッと放す。
「有田さんなら何の心配もないもんな…。」
ボソッと呟くその声は、苦しげに掠れていたけれど。
高梨は、私と離れることを決めたんだーー。
その事実がなんでか。
そんな簡単には受け入れられなくて。
そんなの私にどうこう思う資格もないのに。
私の口は固まって、二の句が継げなかった。
ーしばらく沈黙が続く中、
高梨が切り出す。
「もう帰ったほうがいいんじゃない?あんま遅くまで男の部屋にいちゃダメでしょー。」
口の端をニッと上げて、イタズラ顔で覗き込むその顔は、
もう、いつもの高梨だった。
「送るよ。」
そう言って、上着を取ろうと腰を上げた高梨の動きを、私は制した。
「いいよ。明るい道通って帰るから。…ごめんね、急に来て遅くまで。」
高梨の顔は見ずに、腰を上げてコートを羽織る。
「…ひかりさん。」
高梨はちょっと戸惑いながらも、強引に送るとは言ってこないことにホッとする。
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