10. もつれる糸

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「ひかりさん、…結局半端にしか慰めてやれなくてごめん。」 高梨は謝りながら、茫然としていた私の髪を長い指で一筋掬い、サラッと放す。 「有田さんなら何の心配もないもんな…。」 ボソッと呟くその声は、苦しげに掠れていたけれど。 高梨は、私と離れることを決めたんだーー。 その事実がなんでか。 そんな簡単には受け入れられなくて。 そんなの私にどうこう思う資格もないのに。 私の口は固まって、二の句が継げなかった。 ーしばらく沈黙が続く中、 高梨が切り出す。 「もう帰ったほうがいいんじゃない?あんま遅くまで男の部屋にいちゃダメでしょー。」 口の端をニッと上げて、イタズラ顔で覗き込むその顔は、 もう、いつもの高梨だった。 「送るよ。」 そう言って、上着を取ろうと腰を上げた高梨の動きを、私は制した。 「いいよ。明るい道通って帰るから。…ごめんね、急に来て遅くまで。」 高梨の顔は見ずに、腰を上げてコートを羽織る。 「…ひかりさん。」 高梨はちょっと戸惑いながらも、強引に送るとは言ってこないことにホッとする。
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