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今、高梨の顔をマトモに見たら。
ー泣いてしまいそうだったから。
玄関まで行き、ブーツを履くと。
クルッと高梨に向き直って精一杯の笑顔を作った。
「今まで色々ありがとう…それとごめんね。いっぱい迷惑かけて。
これからもいい同僚ではいてくれる?」
チラッとだけ、高梨の顔を見ると。
ー瞳を少し赤くさせながら、
「もちろん。」
ニッコリと微笑んでくれた。
ーけど。
その潤んだ声に、私の涙腺は火が点いて、とうとう涙が零れ落ちてしまった。
「…っ、バイバイ!」
堪え切れなくて、急いでドアをガチャリと開けて部屋から逃げるように外へと駆け出た。
「ひかりさん!!」
高梨の叫ぶ声が後ろから追いかけてきたけど、
振り返らずに、真っ直ぐ。
寒空の下、自宅へ走った。
空気が冷たく澄んでいて、
頬が刺すように痛む。
でもその頬には、もう、幾重にも熱い涙が伝っていて。
拭っても後から後から、涙が零れて止まらなかった。
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