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「近すぎて見えない。…初めはちゃんと見えていたのに、近すぎて自分から見ようとしなくなっちゃうのかも…」
唯は頬杖をついたまま、もう片方の手のひらでおしぼりを悪戯に転がし、ため息と共にぽつりと呟く。
「近すぎて見えない…当然の感覚が麻痺するんだよ。普通に考えたら、浮気がバレたら別れが来ることなんて十分考えられるのに…別れが来ることだけじゃない。バレる事すら考えもしなかった自分の軽率さに、今更ながら呆れるよ。何が本当に大切なのかも見えなくなる。自分が今歩いている足下さえも見えなくなる。恋は盲目。その意味の恐さを身を以て知りましたわ」
私は苦し紛れの笑みを二人に振り撒き、唯が勧めてくれた鮪の刺身をゆっくりと口に入れた。
「これからも結城先生と続けるの?それとも別れるの?」
唯が眉を寄せ声を潜めた。
「えぇー。別れる必要なんて無いじゃん。そんな事したら綾子もっと淋しくなっちゃう。結城先生といられるならいればいいじゃん!」
唯の言葉を聞いたミチルが、私の返答を待たずに声を上げた。
「今の綾子の言葉聞いたでしょ?一人の男を失ったからって、代わりにもう片方の男に突っ走るって問題じゃ無いでしょうが!」
唯が、納得出来ないとばかりの表情でミチルに反論する。
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