山上綾のいる風景

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その日の綾さんは、いつもより早い時間――夕方の6時過ぎくらいに来店するとカウンターの一番端に座った。 その席は、彼女の定位置。 水槽がよく見えるいつもの場所。 珍しいなあと思って彼女に声を掛けた。 大抵はもう少しあと、9時とか10時とか、そんな時間に寄ってくれるけど、今日はどうしたのだろう? そんな感じで特に深い意味はなかったんだけど、 「珍しいですね、こんな早い時間に。何か疲れちゃうような事でもありました?」 と、彼女に限らずOLさんたちは残業後のリフレッシュに訪れる事が多いから、そんな風に訊ねてみた。 いつも通りの、マリーアントワネットの準備をしながら。 けれど、やっぱり彼女はあまり会話を好まないのか、一瞬だけ此方を見たかと思うと、素っ気なく「そう?」と声を発したきり、すぐにまた向こうを向いてしまった。
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