自殺志願者(ぼく)

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 転校生。  自殺志願者の未来が物語性のあるモノなら、それは螺子曲がった性格が更正へと向かう転機なのだろう。  だけど、これは実際、自殺志願者が転校生を見て、何の印象も感じなかったのだから仕方ない。  なにせ、転校生は、絶世の美女だったり、学校一の頭脳だったり、そんな特徴は一切ない、地味な女の子だったのだし。  彼女を責めるのは不条理もいいところだが。  「自分はひねくれたまま、まっすぐに生きていくんだ」と意味不明な確信を自殺志願者は心に抱いた。  転校生の「ーーーーです。よろしくお願いします」というマニュアル通りの挨拶を聞き流し(名前は瞬時に忘れてしまった。山田花子とかそんな感じじゃないだろうか)、退屈な授業をなんとか潰そうと、無駄な奮闘をする生徒たちの、不必要な質問が始まった。なので、必然的に自殺志願者はそっと瞼を閉じた。  たぶん夢は見ないな、と何故か思ってしまった。
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