『赤い胸』2

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ブログのハンドルネームと同じだったため、たやすく見つかった時は、なんて簡単なのだろう、と思った。 指一本、蚊を殺すにも足りない力で探せてしまい、分かってしまう。 なんと便利で、怖いのだろう。 「雅文は私がブログとかツイッターとかしていないの、知ってた。だから見られる事もないって思ってたんでしょうね。何でも書かれてあるわ。ほんと……まぬけで馬鹿な男」  我が身、我が心を晒し、共感を促し、コメントを貰う。 そんな事でコミュニケーションを取り繕い、まるで自分に興味があるんだという優越を感じる。 それで日々書き立てる。 たかがそれだけの事。 そのために時間を持て余したこれらを簡単に見つけた雅文の文章をまぬけと称し、何が悪いというのか。 幸せな文章は裕子への侮辱。 その答えのコメントは裕子へ投げつけられた泥だ。 たった五文字の返答の一つ一つを見ては、顔に醜い皺でも刻まれていくような痛みさえ感じる。  おめでとう!  おめでとう!  二回その文字を見れば、裕子の身体に二本、刀で傷をつけられた感覚に陥る。 簡単な五文字は、なんて簡単に書かれ、なんて、残酷なのだろう。 見えない真実が、これほどまでに凶器だなんて誰も、裕子以外感じないだろう。
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