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軍事国家ハイランド。
聳える屈強な城塞が立ち並ぶ内部に広がる白亜の世界――魔族居住区として設立された住宅街は、今や騒然としていた。
元々、“ 三魔貴族 ”と“ アーリマン ” の派閥に分かれていた境があった。
その境界線が今、まさに起こっているこの襲撃事件で決定的な亀裂をもたらすだろうことは想像に難くない。
血塗られた空間にはアーリマン派“ 六大悪魔 ”の内、三名もの骸が転がっている。
その一方で、三魔貴族の内、二名は不在、残る一名がこのような大々的なクーデターのような活動を起こしてしまった。
これで“ 三魔派 ”の粛清、解体は免れないだろう。
――――しかし。
そんな情勢など、当の首謀者であるジュピターは全く意に介していなかった。
ジュピターは腕の中で安らかに寝息を立てるリーアを一刻も早く安全な場所に連れていくこと。ただそれだけを考えていた。
預けておいた白亜のコートに早々と袖を通し、地に刺さるエリュキナを素早く鞘にしまい込み、ジュピターはリーアを背におぶった。
舞踏場を抜け、パブの出入口方面に差し掛かったところで。
「――――おっと、結界が外れた……ようだな」
体内の血に浸透する魔導の流れが戻ってくる感覚――それならば、外を張っているだろう公衆の面前にリーアを晒してやる必要などない。
『オリエンス――頼む』
出入口と対角線上の手頃な壁をコツンと叩く。
すると、どろん、という擬音と共に黒い焔を揺らめかせた小型の火精フレイムが姿を現した。
青の血、魔族のエレメントである東の悪魔オリエンスは火を司る精霊。
ジュピターとは三百年以上の付き合いがあり、しかもオリエンス自身がジュピターの相棒として具現化するまでに懐いている。
「入り口にバレないようにそっと頼む」
『――――承知』
火力をコントロールする際は自力で発動させるより、精霊に頼んだ方が得策だ。
ジュピターは過去に彼を帰すまいと幾重ものトラップを仕掛ける女性の部屋から逃亡する際にそれを学んだ。
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