14人が本棚に入れています
本棚に追加
網膜に焼き付く橙の魔力に吸い寄せられるようにじっと眺めていると、何故だか色々な出来事がジュピターの胸に次から次へと去来していく。
「……この景色も当分は見納めだな」
人間界に降り立ってから、魔族のほとんどが人間界のこの雄大な自然に、光に魅了された。
ジュピターの姉もそうだった。
自然に囲まれた小さな村の中、誰よりも美しい舞いを踊ると評判だった。
そんな姉が――――
「……んっ……んー……」
突然背の方からそんな声が聴こえ、ジュピターはふと我に返った。
「おっと、リーアちゃん、ごめん。
……今降ろすから」
部屋の隅に置かれたゆったりめのダブルベッドに慎重に身体を横たえてやると、ぽふん、と身体が布団の柔らかさに沈んでいった。
それでも起きない姿を見ると、イタズラ心がにょきっ、と芽生えてしまうのはなぜだろう。
いや、勿論そのような強引な手段など、今のジュピターには到底出来るはずがないのだが。
「……リーアちゃん…は、取り敢えず大丈夫か。
俺がダメだ……くそ、ただでさえ汚れやすいってのに……これだから白は――!」
三魔貴族のトレードマークとして揃えたミナーヴァ達と色違いの白コートは幸いそれほど汚れは付いていない。
問題は――これだ。
ホワイトカラーのハイネック、銀細工とバンダイクのドレープ襟がついたお気に入りの一枚だったのだが、残念ながらこれはもう諦めるしかないだろう。
試しに脱いでみると、やはり背面部にはしっかりと穴が空けられていた。
前面部は血溜まりに突っ込んでいただけあり、完全な青色。
ついでに自分では届かない背面の傷口の様子を知りたかったのだが、リーアは気持ち良さそうに夢の中。
「……ゆっくり眠るといい」
先程交わした唇の熱を思い出し、無防備な唇をじっと注視してしまう。
ついついといろんな欲望が頭に次々と再生され、それを振り切るように頭を振ったジュピターは着替えを手に寝室から出ていくのだった。
最初のコメントを投稿しよう!