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傾き掛けた橙色の光を浴びながら、墓石に掛かった水がきらきらと光っている。
夕空に立ち上る白い線香の煙は、彼女への狼煙(のろし)だ。
するりと生ぬるい風が僕の頬を撫でる。鼻をくすぐる潮の匂いは毎年変わらない。
盆とはいえ、この墓地に僕以外の人の姿は無く、だからこそ背後に感じた気配が彼女である事はすぐ分かった。
毎年変わらない、その姿。長い髪を一つに縛り、動きやすいよう体操服を着ている。ああ、懐かしくて涙が出そうだ。
彼女は幽霊というやつなのだが、別に僕を恨んでいたり呪おうとしている訳ではない。
であればこの世に未練があるのだろうし、成仏せずにここに留まっている理由も見当は付いている。ただ踏ん切りはつかない。
幽霊は喋れなかったり物に触れないという話を最初にした奴は、間違いなく幽霊に会ったことがない。
それが正しいなら、どうして僕は彼女に手を引かれて夏祭りへと催促される事が出来るものか。
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