第1章~プロローグ~

3/5
前へ
/40ページ
次へ
「……不毛だ」  時は5月半ばに差し掛かり、残りわずかな春の陽気と穏やかな風が差し掛かる。今年は例年よりも気温が2、3度低いということもあり温暖化の影響を世界共通で受けていた日本列島にとってはありがたいことでそれは自分にとっても大変ありがたいことであった。    なぜならただでさえ行くのが辛い大学にわざわざ汗をかいてまで向かうということは非常に不毛なことでたまらないからだ。ただでさえ1時間以上かけて通学しているのだからせめて気分だけでも心地良いもので居たい訳だ。    簡単に言ってしまえば自分はただ、だれているだけなのだ。就職か、進学かで迫られ就職しても自分のこの集団行動の出来なさを理解してとりあえず四年間の身元を確保するという名目だけで進学を選んだ。  受験勉強(塾や予備校にも行きたくないし家庭教師はもってのほかだった)が嫌だったので自分の学力からランクを2つ3つと落としたところに特に何かをする訳でもなく(なぜこの大学を選んだか?的なことはレポート用紙に書き込んだ)推薦入学したという訳だ。 もちろん最近のネット社会に準じて盛大に宣伝が織り込まれている大学のウェブサイトも一切見ることはなかったし、オープンキャンパスなんて時間の無駄だと見下した結果がこれだ。周りの学生たちとはノリが合わないし、授業に出たとしても大多数が騒ぎたてるので聞こえないし、果ては教師の中にもやる気が一切感じ取られない場合がある始末だ。  自分は闇雲にどんな人とでも話せる技術と度胸が無かったので、人間観察を引っ切り無しにしていた。教室内で繰り広げられる他愛のない話たちをさらに無関係な自分が耳を傾け、その人たちの関係性や性格を推測する。 当然人は見かけにはよらないことを理解したうえでじっくりと教室内で繰り広げられるクラスメイトAさんやその2君などの話、掛け合いを注意深く聞いてある程度の人物像を自分なりに描写してから、話せる話せないというジャッジを下す。大半の人たちがこの作業をしている時点で話せないということが決まっているのに気づいたのは高校2年生の秋だった。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加