第1章~プロローグ~

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 まだ始まって1ヶ月ちょっとなのに自分が出ている授業はこれ以上休んだら単位が貰えない週2回の英語の授業だけというあまりにもひどい有様だった。もちろん高校時代の友人たちの中で大学に行った奴の中で自分以外に週2回のキャンパスライフを送っている奴はいない。    中高と帰宅部を貫いた自分が部活やサークルにも興味がわく訳もなく、ただおよそ90分を無駄に過ごすために大学までの通学時間、往復で2時間もの間移動するというとても効率の悪い生活を送っていた。    今はそのくだらない英語のお勉強が終わり大学からやっと解放されてその喜びを全身に浴びせるように噛みしめながらその敷地を即座に離れて五分ほど経ち、最寄りの駅を目指して歩いているところだった。いつもと変わらない時間を消費するだけ、だらだら歩くだけの通学路をぼぉっと歩き早く駅にたどり着かないかな、なんてことを考えている最中だった。    賢次の視線は自分の進行方向に集まっていた2、30人ほど集まっていた人だかりに向けられた。年齢層は自分と同じような年代から4~50代の主婦といった人たちが野次馬のごとく屯していた。  あまりにもその人たちの表情が深刻そうだったのでその人たちの一部に歩きながら聴き耳を立てる。  「――それにしても、消防の人はいつ来るのかしらね。いくらここから消防署まで距離があるとはいえあまりにも遅すぎじゃないかしら」  「そうよねぇ。早くしないと隣の部屋まで火が移っちゃうんじゃないかしら。そもそも――」    消防?火が移る?そんな不穏な単語が耳に入った。そういえばやけに焦げ臭いような気がしないでもない。賢次は足を止めて人だかりとにおいがする方向に目線を向けてみた。    「……火事だ」  まあ、さっき聞こえてきた単語と焦げ臭いにおいからしてある程度予測はついていたのだけれど賢次が驚いたのはそこではなかった。    火事になっていたのは、自分が何も出来ないと嘆いていた大学で唯一出来た友人の住んでいるアパートだったのだ。
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