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織人が差し出した手を、私は遠慮がちに握った。
織人は強く握り返してきた。
人を疑うことを知らない澄みきった瞳。
穏やかで優しくて、正直を絵に描いたような男の子だった。
当時ひねくれていた私には、妙に落ち着いていて、お人好しな子だなってふうにしか映らなかったけど。
『約束』なんてね──。
どうせ守られることも果たされることもないんだよ。
『約束』は破られるためにあるの。
織人だって私と『約束』したことなんて、離れてしまえばどうせすぐ忘れる。
私は何も信じない。
だから。
私は織人との『約束』という言葉に、何の感慨もなく簡単に頷いた。
そして、『約束』なんてすぐに忘れた。
中学時代の『好き』なんて次の日にはどうなっているか解らない、あやふやな『好き』だ。
ただ『恋する想い』に憧れて、誰かを『好き』だと思う自分に恋してるだけ。
そんなふうに冷めた目で周りを見ていた。
私はまったく可愛げのない女の子だった。
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