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『本気で言ってんの?』
真佑巳の声が尖(とが)る。
やばい。怒らせた?
「……本気じゃないよ」と小声で否定する。
『今から逢えるか?』
「いいよ」
『じゃあ、30分後。そっち行くから待ってて』
「わかった」
電話を切ったあと、身仕度を整え軽く化粧を直して真佑巳を待った。
これから珠希と一戦交えるような気分だった。
「カレーの匂いがする」
ドアを開けると、開口一番真佑巳は言った。
相変わらずいい男だと他人事のように思う。
この唇が私に『好きだ』って言ったのに、まだ現実感が薄い。
「匂う?」
「これからメシだった?」
「電話もらったとき、ちょうど食べようと思ってた。
直子は渡部くんとクリスマスデートだから一人淋しくね」
──あぁ。まただ。
言わなくてもいいことを。
「じゃあ、ちょうどいいじゃん。ご馳走してよ」
「は?」
真佑巳は私の嫌味をさらりとスルーした。
「どうせ、直子さん食べないんだろ?
カレーを一人分しか作らないってことはないよな?」
「いや、だって……ホント、カレーしかないよ?」
「白飯はあるんだろ? お邪魔しちゃいまーす」
「あ、ちょっと──」
私を押し退けて、真佑巳はさっさと部屋に上がり込んでしまった。
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