‡ 優しさと嘘 ‡

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  しばらく放心状態だった。 いやな動悸が治まらない。 携帯を手にして、真佑巳に連絡しようかどうか迷った。 そういえば……私のアパートのドアに落書きされていたことは、うやむやになってしまっていた。 やっぱり話した方がいい。 そう決めて携帯を開くと、ちょうど着信音が鳴った。 ──真佑巳だ。 『車、温まったか?』 「え?……あぁ、うん。 もしかして窓から覗いてる?」 『いや、見てない。勘。 そろそろかなって。 アキラの車見たら、オレ泣くから』 「もう……」 『気を付けて帰れよ』 「ありがと」 『じゃあな──』 「あ、真佑巳!」 『ん? どした?』 真佑巳のやわらかな声音。 いま珠希のことを持ち出せば、真佑巳は動揺し、また言い争いになるかもしれない。 やっぱり今夜は帰ろう。 「ううん。なんでもない。じゃね」 さり気なさを装って、私は明るく言った。 『あ、アキラ。言い忘れた』 「なに?」 『……愛してる』 ──もう。いま言ったら駄目だって……。 私はこみあげる涙を飲み込んで、やっとの思いで返事をした。 「私も。……愛してる」    
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