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「はい。コーヒー」
「お、ありがとう。片付けお疲れ」
真佑巳は手渡したマグを受け取って、そう労(ねぎら)ってくれる。
「ありがと」
私は無意識に正座していた。
小さなテーブルを挟んだ向こうにいる真佑巳が、いつもより遠く感じてしまう。
「なんで正座してんの?」
しごく当たり前の問いを口にする真佑巳に、私はぎこちなく笑って見せた。
「いや、あのさ……」
「なに? オレも正座した方がいい?」
あぐらをかいた自分の脚を指差して、真佑巳は無理矢理笑った。
「馬鹿……」
真佑巳の精一杯の道化が嬉しかった。
だから──この重苦しい空気を少しでも早く振り払うために、私は思い切って口火をきった。
「日曜の夜ね……食事から帰ったら、アパートのドアに落書きがしてあったんだ」
「……落書き?」
「うん。
……浮気女、最低って」
「──」
真佑巳の顔から、すうっと血の気が引くのが見えるようだった。
私から視線を外し、テーブルの一点にじっと目をやっている。
「……赤い文字でね。
口紅だと思う。
すごい悪意感じた」
「……」
「……『浮気女って、思い当たるコトがあるのか?』って聞かないの?」
「……」
「聞いてよ、真佑巳」
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