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──うん。やましくなんかない。
だって、何もなかったんだから。
握手して、さよならした。
それだけ。
驚くほど涙が出たけど、それは、織人の10年経っても変わらない優しい笑顔が嬉しかっただけ。
思えば、多感な思春期に楽しい思い出がまったくなかった私にとって、織人がくれた温かな思いやりだけが私の唯一の救いで──。
こんな私でも、離れた場所で長いあいだ気にかけてくれた人がいたってことが、ありがたくて泣けただけ。
真佑巳はもう、うつむいたりしなかった。
一息に言葉を継いだ私はたぶん、顔を真っ赤にしていただろう。
その私にしっかりと視点を結んで、真佑巳は言った。
「……本当にそれだけか?」
「え?」
まるで抑揚のないその真佑巳の問いに戸惑って、私は「それだけって?」と聞き返した。
「その同級生だったって男が、アキラに会いたいって言ったのはさ……。
中学のときに引っ越してって、10年経って戻ってきて、真っ先にアキラに会いたいって思うのは──」
真佑巳の瞳に強い光が宿る。
私はその目の力にたじろいで、身を引いてしまった。
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