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「珠希! 謝れって──!」
「いいよ……。真佑巳」
目の前で、真佑巳が珠希の名前を何度も呼ぶのが苦しくて、私は力なく真佑巳の腕をとった。
「病院、連れてって……」
「アキラ、辛そうだね……。
今夜は話し合いどころじゃないな。病院が先だ。
真佑巳くん、お願い」
そう言って、直子は珠希の腕を解放した。
珠希はすぐにその場を立ち去るだろうと思った。
しかし、彼女は消え入りそうな声でこうつぶやいた。
「……約束……したから……」
肩を落とし、うつむいたままで、直子に掴まれていた手首をもう片方の手でさすっている。
「なに?」
直子がキツい口調で聞いた。
「真佑巳が……この人と別れたら、あたしと付き合うって約束してくれたから……。
だから……早く別れればいいって思って……」
珠希の言葉に、真佑巳が息をのむのが解った。
でも、私は見て見ないふりをする。
「……何言ってんの?
ストーカーしてるうちに、頭おかしくなったんじゃないの?
真佑巳くんがあんたにそんなこと言うわけないじゃない。ねぇ──?」
直子が真佑巳に視線を投げる。
しかし真佑巳はそれには応えず、ゆっくりと私の身体を抱き上げた。
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