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「思ったほどひどくなくてよかったな」
「うん。……ありがと。
運動神経鈍いのに受け身は得意だったんだ、私」
「ばか……」
真佑巳は私の軽口にホッとしたように頬をゆるめ、ハンドルを握り直した。
「左足だから運転もなんとかできるし、よかった。
直子に迷惑かけるとこだったよ」
「あぁ。でもあまり無理するなよ。治りが遅くなるから」
「解ってる」
ぽつり、ぽつりと話をしているうちにアパートに着いた。
「ありがと。助かった」
「いや……。
オレのせいだから」
ズキン──。
足首に鈍い痛みが走る。
「……ごめんな」
真佑巳は瞳だけを私の方に向けて言った。
その後ろめたさをこめた態度と、珠希の代わりに謝ってるんだという的外れな嫉妬で、頬にかぁっと熱が集まってきた。
『この人と別れたら、あたしと付き合うって約束してくれたから』
意識の外に追いやろうとしていた、珠希の言葉が耳の奥によみがえる。
「どうして真佑巳が謝るの?」
憤りを押さえて吐き出した声は、自分でも驚くほど冷たい声だった。
「何に対しての『ごめん』なの?」
「……」
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