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「ごめん。
珠希と闘えってけしかけたの私なのにね」
「……ううん。気にしてないよ」
私の返事にホッとしたように微笑を浮かべ、直子は空き缶を流しに運んだ。
「なんかごちゃごちゃ言っちゃったけどさ。
要はね。私は、『織人くんとアキラにくっついてほしいって思ってる』ってのを伝えたかったわけ」
キッチンから顔だけをこっちに向けて直子は言った。
深刻にならないように、さらりと。
「それはないよぉ」
ホントは不自然に鼓動が高鳴っていたけれど、それを悟られないよう即答する私に、直子は意味深に口角を引き上げながら戻ってくる。
「さ、寝ようか。
疲れたでしょ?
無理かもしれないけど、色々考えずゆっくり休んで」
「無理でしょ。
なんなの? そんな話ふっといて突き放す?」
「あはは。
じゃあ、悩め。悩め。さて歯磨きしよっと」
「ちょっと、直子ぉ」
バスルームにスキップしていく直子の背中に何か投げ付けるものを探したが、生憎見つからなかった。
親友が楽しんでいるように見えるのは気のせいだろうか?
「ほい」
私の目の前に、てんこ盛り歯磨き粉がのった歯ブラシが差し出される。
口のまわりを泡だらけにして、直子がニッと笑った。
「あ、どうも」
結局その笑顔にほだされて、私はその場所でシャカシャカと歯磨きを始めたのだった。
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