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車から離れ、ちらっと後ろを振り返ると、直子がハンドルに身体をあずけてじっとこっちを見ていた。
目が合うと頬を緩めて手を振ってくれる。
その仕草に少しだけホッとして通りを渡る。
アパートの部屋と部屋の間にある、ちょっと奥まった階段を数段上がったとき、背後で『ねぇ』という押し殺した声がした。
反射的に振り向くと、白いコートを着た艶々な巻き髪の女がすぐ目の前に立っていた。
「消えてって言ったのに──」
グロスに濡れた唇が、つぶやくように言う。
──珠希……!
一瞬心臓を直につかまれたかのように、呼吸が止まった。
珠希は挑むような目つきで私を見上げてくる。
真正面から初めて見たけれど、すごく綺麗な顔立ちをしている。
素顔のままでも相当可愛いのだろうけれど、それに加えて化粧がまた巧い。
目の周りなんか芸術だな。
つけまつ毛といい、キラキラアイシャドーの絶妙なグラデーションといい、アイラインの正確さといい。
面倒臭がりの私は最初から念入りな化粧をする努力を怠っているから、珠希の綺麗に見せようとする努力に感心させられてしまった。
こんな状況の中だというのに。
しかし、キツい感じのコだな。
強気な性格が表情に出てる。
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