世界一

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 それでもおとうさんとボーリングに行くのは、凄くわくわくした。  おとうさんが投げる時は、みんなが注目した。何しろ、フォームから凄い。  ぐっ、て体中で力を溜めて、そこから凄い顔中の筋肉に力を入れてほとんど砲丸投げみたいな勢いで投げるのだ。  ちゃんと下手投げだけど、球速が四十キロも出るのだ。僕がどんなに躍起になって投げても十キロちょっとしかいかないのに。  それに終わったあとのゲームセンターも楽しみだった。  そこにあるパンチングマシーン。  僕が一生懸命叩いても四十キロ。  で、お願いしてお願いしてお願いして、やっとおとうさんが照れくさそうに叩くと、そこに表示される三百キロの数字。  おとうさんは、僕のヒーローだった。  おっきいプロレスラーもボクサーのチャンピオンも、悪の手先も恐い総帥も、誰もかなわないと思ってた。どんな武器を使ったってムダだと思ってた。  戦争になってもおとうさんがいれば平気だと思ってた。  核爆弾が落ちてきても、おとうさんなら止められると思ってた。 
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