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忘れられるはずのない声──。
「……珠希?」
無意識に聞いていた。
真佑巳はためらいがちにうなずく。
『真佑巳っ! 開けて!
どうしても話したいことがあるの! 真佑巳っ!』
珠希はドアを叩きながら叫んだ。
「──なんで?」
私の問いに、真佑巳はすっと唇に人差し指をあて、ドアに張りつくようにして息を潜める。
あきらめて帰るのを待つつもりらしい。
さっきまでの幸せな気持ちは一瞬にして消え去り、不安と疑念で胸の中が真っ黒に塗り潰されたようになった。
──もう終わったはずじゃなかったの?
どうしても話したいことってなに?
『真佑巳っ! 開けて。お願い!
あの人も一緒なんでしょう?
話を聞いてよっ。
じゃないと、真佑巳が辛い目に遭うの!』
珠希は叫ぶことを止めない。
私は手を伸ばし、真佑巳の腕を強く握った。
そうしないと力が入らない脚から崩れ落ちて、尻餅をついてしまいそうだった。
──辛い目ってなに?
なんだって言うの!?
『あの人、嘘つきだよ!
真佑巳っ──お願いぃ……開けてよぉっ!』
真佑巳は大きく息を吐き、ドア越しに言った。
「帰ってくれ」
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