‡明かりが見えない‡

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    「だって、期待させて裏切りたくない。 なんせ本日ぶっつけ本番ですから」 「マジか?」 「マジっす」 「胃薬用意しとこ」 「はいはい。そうしてくださいよ」 「──」 ちょっと間をおいて、真佑巳はプッと吹き出した。 「やっぱりアキラはこうじゃなきゃ!」 「──わっ。なにっ?」 不意に思いっきり抱き寄せられた。 まったく心の準備ができてない上に、力まかせに羽交い締めにされているせいで、うまく呼吸すらできない。 「真佑巳っ──苦し──」 ムードも何もあったもんじゃない。 しばらくもがいていると、真佑巳は腕の力を緩める。 「……やっと元に戻れたな」 わずかに声を震わせて、私の耳元で言った。 「うん……」 ──そうだね。 私もこんなふうにまた、真佑巳に軽口をきけることが嬉しいよ。 そんな想いをこめて私も真佑巳の背中に腕を回し、ぎゅっと抱きしめた。 ──あぁ。温かい。 鼓動が心地よいリズムを刻む。 身体を離すと、最初に真佑巳の伏せた長い睫毛が目に入った。 初めてキスしたとき、メチャクチャ緊張しているくせに、『男のくせになんでこんなに睫毛長いんだ?』って羨ましく思いながら目を閉じたことを思い出す。 なぜか、とても遠い過去のような気がした。  
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