‡明かりが見えない‡

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真佑巳は私のまばたきが間に合わないほど一瞬の、唇が触れるだけのキスをした。 「いま熱烈なチュウしたら、このまま押し倒しかねないからな」 「バカ……」 「へへへ。久々だからドキドキしたろ?」 「……そうね」 もちろん、一瞬のキスで身体の芯からとろけそうだよ。 でも、わざと何でもないって顔をして見せた。 真佑巳は、そんな私のひねくれたとこもちゃんと見抜いてるんだろう。 満足気な顔で私の頭をぽんとたたいて、スーパーの袋から中身を取り出し始めた。 「米はセットしてあるから」 「あ、ありがと」 一昨日直子は、私のためにハンバーグの作り方を実演しながら、『男のハートをつかむには、まず胃袋をつかめ!』と、どこかで聞いたことのある台詞を口にした。 ボウルの中の材料を、ぐちゃっ、ぐちゃっと鷲掴みにしながら。 『自分は渡部くんの手料理食べてる回数の方が多いくせに』と喉元まで出かかったけど止めておいた。 口では直子に勝てない。 さて。 直子の厚意に応えるためにも、真佑巳の胃袋を掴まないと。  「真佑巳、座って待っててよ。 なんだったらお風呂入っちゃえば? 時間かかると思うし」  
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