‡明かりが見えない‡

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  真佑巳の隣に並んで、玉葱を手に取りながら言う。 「本当に大丈夫か? 手伝うぞ?」 「はぁ……。私そんなに頼りない?」 「違うって。一緒に作れば楽しいじゃん」 「それじゃ意味ないでしょうが」 「ふん……。じゃあお手並み拝見といこう」 大げさに腕組みをする真佑巳に、玉葱をぶつける真似をする。 「なんだよ?」 「見てなくていいから! 座って待っててって」 「いいじゃん」  「緊張するから!」     私は真佑巳の腕を肘でつついた。 「いてっ──」 「ダメ出しされたらへこむの。ほらっ」 再び、真佑巳の肩をどんと押した。 「ったく。解ったよ」 真佑巳はしぶしぶ居間に戻りながら振り向いて、「丸めたらちゃんと空気抜けよ。焼いてる間に割れるから」と挽肉を指差した。 「解ってます! ちゃんと直子に教わったよ!」 「やべ。アキラがキレた──」 真佑巳はクルッと回れ右して、そそくさと居間に引っ込んだ。 やばい。真佑巳に言われなかったら、空気抜くの忘れてたかも。 私は苦笑いで玉葱の皮を剥き始めた。 「アキラ! オレ、風呂入るわ」 真佑巳がひょこっと顔を覗かせて、いそいそと浴室に向かう。 「うん。ごゆっくり!」 私は笑顔で手をあげる。 ──こういう何気ない時間が、きっと一番幸せな時間なんだろうな……。  
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