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笑顔で聞いてくる織人の顔を見たら、咄嗟に「うん。大丈夫。なんか人懐こい犬でさ。女の子が大好きなんだって」
そう答えていた。
笑顔さえ浮かべられる自分が不思議だった。
「そっか。それならよかった。
じゃあ、行こう」
「あのさ──」
「ん? どうした?」
「悪いんだけど……やっぱり一人で帰るよ」
織人は訝しげに眉を寄せる。
「電話で何か言われたのか?」
「違うよ」
「…………」
織人の目が見られない。
巧い言い訳が見つからない。
いまさら真佑巳に遠慮でもないけれど、あんな電話を受けたすぐあとで、織人と同じタクシーに乗ることにためらいを感じたんだ。
「とりあえず乗ろう。
さっきから運転手が睨んでる」
織人が私の腕をとった。
「彼氏と喧嘩したのか?」
タクシーが動きだしてすぐ織人は聞いた。
「……違うよ。
言ったでしょ」
「ホントに?」
「嘘言ってどうするの?」
私はわざと明るい声を出す。
「……直子さんと三人で会った時、別れ際に俺がお互い幸せになろうって言ったの憶えてる?」
「憶えてるよ? なんで?」
「陽はいま、幸せか?」
「もちろんだよ」
私は正面を見ながら会話していた。
面と向かえば嘘はすぐばれると思ったから。
不自然に会話が途切れたので不安になって織人を伺うと、なぜか悲しそうに唇を歪めて私を見ていた。
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