5人が本棚に入れています
本棚に追加
/22ページ
「本当に?」
「うん」
なんとか織人の目を見て言えた。
「……解った。
もう何も言わない」
織人は腕組みをして、窓外に目をやる。
ガラスに織人の怒ったような表情が映っている。
「織人……」
呼びかけても応えてくれなかった。
沈黙がとても苦しい。
やがて、タクシーはアパートの駐車場に着いた。
「織人。タクシー代……」
怖ず怖ずと声をかけると、織人はこちらを振り向き「いいよ。今日は楽しかった。直子さんによろしく」と言って手をあげた。
「うん……ありがと。
じゃあ」
「おやすみ」
私はタクシーを降り、小さく手を振った。
織人は無表情でうなずいただけだった。
タクシーのテールランプが見えなくなる。
大きくひとつため息をつく。
その刹那、言うようのない悲しみがせりあがってきて、私はその場にしゃがみこむと両手で顔をおおった。
──どうってことない。
真佑巳に誤解されたままだって、酷い女だって思われたって。
私から別れるって言ったんだ。
誤解が解けたからって何も変わらないんだ。
声を殺して泣きながら、私は自分に言い聞かせた。
神様が『きっぱりあきらめろ』と言ってるんだ。
悲しくない。
淋しくない。
でも……。
涙はいつになっても止まらなくて……。
最初のコメントを投稿しよう!