‡ どうして──? ‡

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  「本当に?」 「うん」 なんとか織人の目を見て言えた。 「……解った。 もう何も言わない」 織人は腕組みをして、窓外に目をやる。 ガラスに織人の怒ったような表情が映っている。 「織人……」 呼びかけても応えてくれなかった。 沈黙がとても苦しい。 やがて、タクシーはアパートの駐車場に着いた。 「織人。タクシー代……」 怖ず怖ずと声をかけると、織人はこちらを振り向き「いいよ。今日は楽しかった。直子さんによろしく」と言って手をあげた。 「うん……ありがと。 じゃあ」 「おやすみ」 私はタクシーを降り、小さく手を振った。 織人は無表情でうなずいただけだった。 タクシーのテールランプが見えなくなる。 大きくひとつため息をつく。 その刹那、言うようのない悲しみがせりあがってきて、私はその場にしゃがみこむと両手で顔をおおった。   ──どうってことない。 真佑巳に誤解されたままだって、酷い女だって思われたって。 私から別れるって言ったんだ。 誤解が解けたからって何も変わらないんだ。 声を殺して泣きながら、私は自分に言い聞かせた。 神様が『きっぱりあきらめろ』と言ってるんだ。 悲しくない。 淋しくない。 でも……。 涙はいつになっても止まらなくて……。  
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