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こぶしで涙を拭って見上げた織人の表情は、笑っているようで、困っているようで──それでも瞳はやはり穏やかさに満ちていた。
織人は手を放し、「迷惑か?」と短く聞いた。
私は首を横に振る。
視界を白い息が流れていく。
「俺に話せないことを無理に話さなくてもいい。
でも、嘘はつかないでくれ。
俺はさっき、みんなの前で陽に対する気持ちを打ち明けて、自分なりのけじめをつけたつもりだよ。
陽には彼氏がいる。
この先、陽と友達以上の関係を望む気はない。
柿崎や、直子さんと同じような仲になることも無理だと解ってる。
だったら……せめて頼ってくれないか?
困ったとき、辛いとき、悩んでるとき……心を割って話せるだけの間柄でいい。
俺は……陽との出会いを無駄にしたくない。
10年間、何もできなかったぶん、陽の助けになりたい」
「…………」
私は唇を噛み、ずっと織人のジャケットを見つめていた。
わずかな沈黙のあと、織人は言った。
「……俺は信用できないか?」
その言葉に勢い良く顔をあげる。
──今、言わなければ。
織人に『信用できないか?』なんて二度と言わせちゃ駄目だ。
「信じるっ!
ずっとっ──。
ずっと織人を信じればよかったって思ってた!」
織人は私の剣幕に目を見開いた。
「織人だけは信じればよかったって、他の誰も信じられなくても織人だけはって……ずっと後悔してたんだよっ──」
織人の胸をこぶしで叩き、そのまま額をジャケットに押しあてた。
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