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「陽……」
織人の手のひらが、私の頭に置かれた。
とても遠慮がちに。
──温かい。
「別れたんだよ」
私は織人の胸に呟くように言った。
「…………」
「『別れる』なんてたいそうな言葉使ったら、申し訳ないくらい短い付き合いだったけどね……」
織人はそっと身体を放す。
私が笑顔で『幸せだよ』と言えない状況にあること。
真佑巳とうまくいっていないことを織人は察していた。
でも、『別れた』と聞かされるのは予想外だったのだろう。
馬鹿正直で、解りやすい織人は明らかに言葉に窮していた。
「織人がそんな顔しないでよ。
……そういうわけだから、もう変に気を使わなくて大丈夫なんだよ」
「…………」
「ねぇ、話聞いてくれる?
私も織人に話したい。
色々聞いてほしい。
いまさらだけど、ここ寒いよね。
よかったらアパート寄ってって。
直子も喜ぶと思うから。ね」
織人がしてくれたように、私は背を伸ばして織人の肩をぽんと叩いた。
織人がようやく笑顔になる。
私もつられるように頬を緩めた。
きっと──。
はじめから私はこうしたかったんだ。
織人。
ありがとう。
有り余る誠実な思いをありがとう。
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