5人が本棚に入れています
本棚に追加
/22ページ
織人は直子に手をとられたまま、困惑顔を私に向ける。
私はその表情が愉快で、くすくす笑いをもらした。
直子と織人のおかげで、重くのしかかっていた不安が少し軽くなった。
勇気を出さなければ。
自分のために。
そしてこんな私を親身に心配してくれる直子と織人のために。
送って行くという直子の申し出を丁重に断った織人は、タクシーで帰って行った。
入浴を済ませたあとビールを飲みながら、直子に同窓会の話を聞かせた。
直子は実直な織人のことを誉め倒し、織人と一緒にならなければバチが当たるとまで言った。
「だったら直子がつきあいなよ」
「馬っ鹿だねー。
私にとっては繁ちゃんの方が織人くんの何倍もいい男なの!
アキラには織人くんがベストパートナーなんだよ。
なんで解んないかなぁ。
って、真佑巳くんに未練たらたらのアキラに何を言っても馬耳東風ぅー」
「じゃあ言うな」
「アハハハハッ」
けらけらと笑いあい、勢い良くビールをあおった。
寝る前に──夜中の二時を過ぎていたが──真佑巳に電話をかけようと、布団のなかで携帯を開いた。
酔いにまかせ、どうせ電源を切っているんだろうと思いながら携帯を耳にあてる。
予想に反して呼び出し音が鳴った。
心臓が飛び跳ねた。
酔いは一瞬で冷めた。
コール音が一回、二回、三回……十回。
──出ない。
ため息を吐き出し、携帯を閉じた。
最初のコメントを投稿しよう!