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織人が、僕じゃなく俺って言った。
なんかすごく新鮮だった。
「織人……すごいね。
ずっと感じてたけど。
他の言葉でうまく表現できない。
ホント人としてすごい!」
「あははは。
陽に誉められた」
冷たい空気がびりびりと震えるほどの大声で、織人は笑った。
まだ酔いが残ってるみたいだ。
「えー、そんな爆笑するとこ?」
「悪い。
陽が真剣な顔して力説するからさ」
「だって、本当にしみじみそう思ったんだよ」
「ありがとう」
織人は長い腕を伸ばし、私の肩をぽんと叩く。
とてもさり気ないスキンシップだった。
私は自然に笑顔になる。
「生きてたらさ……いやなこといっぱいあるだろ?
楽しいことや嬉しいことより、辛かったり苦しんだりすることの方が多い。
けどさ。
すごい幸せだって感じることが一つでもあれば、それが支えになってけっこう頑張れるんだよ」
「幸せだって感じること……」
「うん」と織人はうなずいて、こう続けた。
「転校していく前の陽との約束……。
俺にとっては、あれが支えだった」
思わず足が止まった。
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