‡変わろうとする勇気‡

6/27
前へ
/27ページ
次へ
  「またそれは別の話だよ」 「他人以上に気が合わない兄弟もいるんだってば。 やっと解放されたんだから、そっとしといて」 一人っ子の方がどれだけ気楽だったか。 ヒカリが結婚して新しい家庭を持てば、また距離は遠くなる。 その事実にホッとしている自分がいる。 仲良くする努力なんて、いまさら──。 直子が下拵えした茄子をレンジにセットする。 直子は茄子にかけるタレを作っていた手を止めて、じっと私を見つめた。 無言で訴えているんだ。 『また面倒なことから逃げるんだな?』って。 「……わかったよ。 少しずつ歩み寄る努力します」 私の応えに満足した直子は、うんうんとうなずく。 「よしよし。 アキラは変わるよー。 織人くんっ。見ててねー!」 直子は右手を口元に当てて、遠くに向かって大声をあげた。 「直子!」   「素直じゃないねぇ。 私にはアキラの未来がはっきりと見えるよ」  私は苦笑を漏らし、レンジから茄子を取り出す。 「あっちっ──」 「あははは。料理を覚える努力もしようね、アキラくん」 「うるさい。直子だってぜんぶ渡部くんに教わってるくせに」 「ふふん。私は努力してるもんね!」 できあがった料理の皿を得意気にかかげて、直子は笑った。  
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加