6人が本棚に入れています
本棚に追加
「またそれは別の話だよ」
「他人以上に気が合わない兄弟もいるんだってば。
やっと解放されたんだから、そっとしといて」
一人っ子の方がどれだけ気楽だったか。
ヒカリが結婚して新しい家庭を持てば、また距離は遠くなる。
その事実にホッとしている自分がいる。
仲良くする努力なんて、いまさら──。
直子が下拵えした茄子をレンジにセットする。
直子は茄子にかけるタレを作っていた手を止めて、じっと私を見つめた。
無言で訴えているんだ。
『また面倒なことから逃げるんだな?』って。
「……わかったよ。
少しずつ歩み寄る努力します」
私の応えに満足した直子は、うんうんとうなずく。
「よしよし。
アキラは変わるよー。
織人くんっ。見ててねー!」
直子は右手を口元に当てて、遠くに向かって大声をあげた。
「直子!」
「素直じゃないねぇ。
私にはアキラの未来がはっきりと見えるよ」
私は苦笑を漏らし、レンジから茄子を取り出す。
「あっちっ──」
「あははは。料理を覚える努力もしようね、アキラくん」
「うるさい。直子だってぜんぶ渡部くんに教わってるくせに」
「ふふん。私は努力してるもんね!」
できあがった料理の皿を得意気にかかげて、直子は笑った。
最初のコメントを投稿しよう!