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私を試したんだと言ってほしい。
『あのまま、メールだけで終わりにするつもりだったのか』
『アキラのオレに対する気持ちは、そんな簡単なものだったのか』と叱りつけてほしい。
そんな都合のいいことも期待してしまう。
ドアの前に立ち、もう一度深く長く息を吐き出す。
「前に、進む」
小さくつぶやいて、ドアフォンを押した。
心臓が喉元にせりあがってくるような感覚に吐き気を覚える。
返事はなかった。
もう一度押して、反応を待った。
──前に──。
「真佑巳。おはよう。
いきなり来てごめんね。
会って話がしたかったから……」
ドアにぴったりくっついて、震える声を必死に絞りだす。
冷たいドアの向こうの気配はうかがえなかったけれど、真佑巳は中にいるという確信があった。
「真佑巳──」
駄目だ。
緊張の重圧に耐え切れず、涙が出そうになってしまう。
携帯を取り出して、真佑巳の番号をリダイアルした。
予想どおり留守電に切り替わる。
「真佑巳……。
どうしても会いたいんだ。待ってるから出てきて……」
必死の思いでメッセージを残し、携帯を手にしたまましばらくその場に立ち尽くした。
細かい身体の震えが止まらない。
歯をくいしばっていないとカチカチと音が鳴りそうだった。
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