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佐藤一弥の言った『あいつの最後の愛情』。
あれはそのまま、正解なんだと認めるしかない。
珠希の病院を見舞っているという真佑巳。
どんな思いでそうしているのか、私には想像するしかないけれど……。
真佑巳は珠希とやり直すことを選んだんだろう。
今すぐにではなくても。
少なくとも、私とはきっぱり別れると決めたに違いない。
だから、私に嫌われようとしたんだ。
私が真佑巳に幻滅するように、わざと織人のことを持ち出して。
私がいまさら行動を起こしたところで何も変わらない。
真佑巳とは戻れない。
電話での会話。
突き放すような冷たい真佑巳の声。
今なら不思議なくらい納得がいく。
珠希のことは伏せたまま、自分だけが悪者になればいいんだと、それで終わりにしようとした不器用な真佑巳の愛情を感じて、胸から熱い固まりがせりあがってくる。
──私は、そんな真佑巳が大好きだ。
階段を一段一段踏みしめながらあがっていく。
もう迷いはなかった。
心臓は早鐘を打つけれど、それはけして今までみたいに不快なものではなかった。
──絶対真佑巳に泣きついたりしない。
私の中に、真佑巳に対する想いだけが取り残されたりしないよう、笑顔で潔く『ありがとう』を言うんだ。
そして最後にもう一度、私の大好きな真佑巳の笑顔を見るんだ。
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