‡ かけがえのないもの ‡

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  2月吉日。 渡部くんと直子の結婚式の日。 この日は真冬にもかかわらず、のどかでぽかぽかと暖かな一日だった。 O市にある教会の併設されたホテル。 私は100人ほどの招待客に混じって披露宴に出席した。 純白の、タイトでシンプルなドレスに身を包んだ直子は輝くほどに綺麗だった。 赤い髪はそのままに、白い生花をあしらった小さなヘッドドレスをちょこんと斜めにつけている。 終始笑顔を絶やさない新郎新婦の姿を、私は親になったような神妙な面持ちで見守っていた。 ことあるごとに、直子が私に向かって嬉しそうに手を振ってくるので、頼むからやめてくれと必死に首を横に振るので忙しかった。 渡部くんの招待客のなかに真佑巳がいた。 1年ぶりに見た元彼──って言ってもいいんだよね──は、光沢のある明るいグレイのスリムスーツに身を包み、髪はちょうど初めて出会った合コンの時のように、見事につんつんと整えられていた。 懐かしさから鼻の奥が痛くなる。 真佑巳は私の座っている円卓の斜め前に、佐藤一弥と隣り合って座っていた。 ちょうど私に背を向ける席だったので、隣の佐藤一弥と談笑する時の横顔を何度か盗み見た。 少し頬が削げて、あの頃よりも男らしく見えた。
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