‡ かけがえのないもの ‡

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    「直子ぉぉ」 私は周りの目を気にする余裕もなく、引き出物の袋とバッグを床に放り投げて、号泣する直子に抱きついた。 花束は手放さなかった。 「アキラぁーっ」 「直子ありがとぉ。 ホントにホントにありがとっ──」 「こっちの台詞だよぉ。 ありがとアキラ!」 しばらく抱き合っておいおい泣いた。 嬉しさ8割。 そして、離れてしまう淋しさが2割。 女2人で散々大泣きしたあとの気まずさから、私はそそくさと荷物を拾い上げ、渡部くんと両家のご両親にお辞儀をしたあと、直子に胸の前で小さく手を振ってロビーへと踵を返した。 ラウンジには多くの客がいた。 テーブルを囲むソファで談笑している客たちの間を通り抜けて、窓側に向かって並んでいる一人掛けの椅子腰掛ける。 カウンターテーブルに荷物を乗せて、深く息をついた。 高いヒールに慣れていないふくらはぎが固く張っている。 前かがみになって、固まったふくらはぎをさすった。 ──真佑巳はもう帰ったのかな。 少しだけ言葉を交わしたかったな……。 そんなことを思いながら、バッグから携帯を取り出す。 織人には披露宴の終わる予定時間を知らせてあったけれど、念のために迎えに来てもらえるようメールしようと思った。 近くまで来て、待ってくれているかもしれない。      
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