‡ わすれもの ‡

3/19
前へ
/37ページ
次へ
    ヒカリは「うん」とうなずいた。 そうして、私だけに聞こえるように小声で言った。 「部屋の片付けしてたら、アキラのものが出てきてさ。 ごめんね。 箱に入れて居間に置いてあるから」 「私のもの?」 「借りっぱなしになってた本とか漫画とか色々」 「あぁ……」 ヒカリはバツが悪そうに首を竦める。 その顔は子供の頃のままだ。 「あたしがいなくなったら、父さんも母さんも淋しいと思うから、たまには帰ってやってね」 「……うん」 解ったと言いながら親に目をやる。 どう見ても新婦の両親という幸せオーラは微塵も感じられない。 むしろ不機嫌そうだ。 義理の息子になる男がバツイチで、娘とは一回りも年の差があり、しかもできちゃった結婚だということが、両親にはかなりショックだったらしい。 別に、人様に迷惑がかからなければ、どんな生き方をしようがかまわないと思うんだけどな。 結婚にだって、『これが正しい形』なんてものはないはずだ。 やっぱり、両親世代の人間は世間体とやらに振り回されてしまうんだろうな。 「頼んだからね」 ヒカリは笑って私と両親に手を振ると、新郎のもとへ歩み寄っていった。      
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加