‡ かけがえのないもの ‡

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    「そろそろ迎えに来てるんじゃねーかな」 真佑巳はそう言って、背もたれに肘を乗せて後ろを振り返った。 私は頭だけを窮屈に後ろに向ける。 そうしながら、『なんだ、やっぱり珠希さんと付き合ってるんだー。合コン三昧だとか言ってぇ。正直に言えばいいのに私に遠慮か?』って気楽に突っ込んでやろうかなって思ってた。 真佑巳の視線の先に、10人ほどの招待客の輪ができていた。 ほとんど男性で、その中に女の子が2人──。 「あ、いた」 私はわざと声に出した。 ──珠希。 後ろ姿だったけど、すぐに解った。 披露宴に招待されたのではないことは一目瞭然。 黒いショートコート。 すらりと伸びた長い脚に似合うスリムなダメージジーンズ。 なめらかな茶髪が、彼女が誰かと会話をするたびに背中でさらさらと揺れる。 ──今日は巻き髪じゃないんだ? そうか……。 彼氏を迎えに来るのに、そんな気合いは不必要だってことか。 私は前に向き直り、「行かなくていいの? また誤解されるのイヤなんだけど?」と、ふざけた調子で言った。 「それはないな」 真佑巳は軽く受け流す。 「……あ、そうなんだ」 確かに誤解するも何もないか。 彼女の目の届くところで話してるんだから。   こちらに背中を向けているということが、『私が真佑巳の彼女なんだ』という余裕……。 そう思った。      
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