‡ かけがえのないもの ‡

12/18
前へ
/37ページ
次へ
    「私より真佑巳の方が先に結婚するんじゃないの?」 「あ? 誰と?」 「もう。やめて、白々しいから」 「は?」 真佑巳は器用に片眉を上げて、「やめてってなんだよ」と邪険に言った。 「怒ることないじゃない。 珠希さんとつき合ってるなら、いずれ結婚するだろうと思って言ったんだよ?」 「誰がつき合ってるって言った?」 今度は私が「は?」と聞く番だった。 「だって、珠希さんが迎えに来てるって──」 「あいつが迎えにきた男は隣にいるだろが」 「………」 真佑巳が親指を立てて示す方向をもう一度振り返った。 「あ……」 珠希の左隣に佐藤一弥がいた。 珠希の陰に隠れて、さっきは解らなかったんだ。 私が頭を戻すと真佑巳はニッと笑い、「そういうこと」と得意気にカウンターテーブルに頬杖をついた。 私の勘違いを解っていて面白がっていたらしい。 まったくこいつは。 「珠希さんと佐藤さん……だっけ? つき合ってるんだ」 「あぁ。半年前くらいかな。 くっついた。 佐藤言ってたぞ。アキラのおかげだって。 あいつに喝入れたんだろ?」 「いや。そんなつもりじゃ」 「結果オーライ。 アキラも珠希の顔見たら解るよ。 すごく穏やかになった。 佐藤がそうさせてるんだ。 あいつらお似合いだよ」      
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加