‡ かけがえのないもの ‡

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    「じゃな。話ができてよかったよ」 真佑巳は呆気にとられるほどあっさりと、私の手を放し立ち上がった。 そうして軽く手を振って、私に背中を向け歩きだす。 「真佑巳っ!」 私は真佑巳を呼び止めながら立ち上がった。 そして、顔だけこちらに向けた真佑巳に言う。 「私も。 話せてよかった」 真佑巳はほほ笑み、再び背中を向けたかと思うと、くるりと踵を軸に回れ右をした。 「言い忘れた」 「……なに?」 「オレさ、つい最近、彼女できたんだわ」 真佑巳はにんまりと笑い、顔の横でぱっと右手を広げる。 ──こいつっ! 言い忘れたとか白々しい。 絶対わざとだ。 真佑巳の得意気な顔がなんだかすごく可笑しくて、からかわれたことが嬉しくて──。 私は心のそこから笑い声をあげた。 「よかった。おめでとー!」 「おう。今度こそお互い幸せになろうな!」 「うん!」 私は手を振りながら、佐藤一弥と珠希がいる輪の中に入っていく真佑巳を見送った。    
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