‡ かけがえのないもの ‡

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    「披露宴はどうだった?」 ハンドルを握った織人が聞く。 「うん。よかったよ。 直子、ホントに綺麗だった。 もう幸せでたまりませんって顔。 最後は、大泣きしながら抱き合ってきたよ。 これ……ブーケ。 もらったんだ」 私は、織人の視界に入るように、ブーケを持った手を伸ばした。 「そうか。綺麗だな」 「うん。 直子のブーケとお揃いなんだ。 私、花の名前解らないんだけど……可愛いよね」 白とオレンジとイエロー……。 淡い色合い。 丸い花びらが可愛い、ふんわりとやわらかなイメージのブーケ。 「直子さんのイメージじゃないな。 もしかしたら陽をイメージして作ったんじゃないのかな? 陽にとても似合ってる……」 「え?……そうなのかな。 私、ちゃんとお礼しなかった」 確かに、直子にはもっと華やかで大きな花のブーケが似合う。 織人はハンドルから左手を放して、私の頭をするすると撫でた。 「そのブーケが、直子さんの陽に対するお礼なんじゃないの?」 そう言って、また頭をぽんぽんされた。  ──直子……。 ダメだ。 また涙が。 直子は2ヵ月前、渡部くんの家に引っ越して行ったが、その後もしょっちゅうアパートに来ていた。 『アキラが心配でさ』とか何とか理由つけて、必ず梅しばを肴にお酒を飲む。 他愛ない馬鹿話をして、陽気に笑い合う。 直子の笑い声で元気が湧く。 そのたびに私は──。 私にとって直子がどれだけかけがえのない存在かということを識るんだ。      
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