6人が本棚に入れています
本棚に追加
「あぁ疲れた」
父親は着替えを済ませると、居間の座椅子に深く沈み込んだ。
両親を実家まで送り届け、ヒカリの言っていた荷物を持って早々に退散しようと思っていたのだが、結局上がり込んで夕飯を食べることになってしまった。
特に何かおしゃべりするわけでもなく、テレビを観ながらとる夕食。
これは昔から変わっていない。
なんか息苦しい。
「陽は……結婚を考えている男はいるのか?」
夕飯が済んでお茶を飲んでいた時、父親がぼそりと聞いた。
「……まさか。彼氏すらいないよ」
父親はホッとしたように「そうか」とうなずく。
「織人くんとはどうなの?」
お茶をつぎ足しながら、今度は母親が聞いた。
「どうって……」
「お付き合いしてないの?」
「してないよ。ってか、どうしてそう思うの?」
「だって……こっちに帰ってくるからって連絡くれたり、陽の電話番号聞いてきたり。
ほら、年賀状届いた時もあったじゃない?
陽のこと好きなんだろうなって思ってたから」
「……」
「織人くん、いい青年じゃない?」
「そりゃ、いい人だよ。
でも……それと付き合うってのは違うよ。
まだ当分独りでいたいし」
──やばい。
これ以上あれこれ詮索されたくない。
私はさっさと腰を上げ、隅に置いてある箱を手にとると「ご馳走様」と言い置いて部屋を出た。
最初のコメントを投稿しよう!