‡ わすれもの ‡

6/19
前へ
/37ページ
次へ
    いったいいつ届いた手紙なんだろう。 私は丁寧に封を剥がして、便箋を取り出した。 少し黄ばんでいたが、やはり白の縦書きの便箋だった。  陽へ。  初めて手紙を書きます。  昨日、高校の卒業式でした。  陽も卒業おめでとう。    僕は来月から社会人です。  工業系の高校を出たので、車の製造工場で働きます。  不安が大きいけど、頑張るしかないよね。  陽は大学に進むのかな?  進学、就職どちらにしろ、充実した毎日を送っていこう。  そうそう。陽は今でも苺味の食べ物が好きですか?  僕はコンビニに寄ったりすると、つい苺味のお菓子を買ってしまうよ。  陽と過ごしていた頃を思って、すごく懐かしい気持ちになります。  毎日無事に過ごしていますか?  独りでいろんなことを抱え込んでいませんか?  携帯番号とメールアドレスを書いておきます。  よかったら返事もらえると嬉しい。  ではまた。  お互いに身体に気を付けて新生活頑張ろうな。           一色織人 ──6年前にくれた手紙。 やっぱり、誠実で優しくて。 この部屋で苺味のチョコをつまんでいた織人の、やわらかな表情がまぶたに浮かぶ。 ──織人。 返事待っていてくれた? まさか私が6年後の今頃、読んでいるなんて夢にも思わないよね。 ごめんね……。 返事書けなくてごめんね。 いまさらヒカリを恨んでも仕方ないけど、なんだか悔しくて、すごく悲しくて涙が出てきた。    
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加